オールブラックスのハカを見て、日本も何かで対抗したい人たちへ【後編】~鬨、〇〇節、日本人の戦闘儀式~


 ラグビーワールドカップ2019日本大会は日本代表の大躍進もあり、大盛況の中幕を閉じた。ラグビーブームはそれに留まらず、国内のトップリーグは歴代最多観客数を更新し、その盛り上がりは文化として定着しつつあると言っていい。


 その中で、ラグビー新規ファンにも「強豪国」として知られるニュージーランド
ニュージーランドはラグビー王国であるだけでなく、先住民族マオリ族の文化を尊重し、試合前にマオリの戦闘舞踊であるハカを行うことで有名だ。


 その儀式を見ているだけの日本代表を歯痒いと思っている方々へ、日本の戦闘舞踊について、今回は紹介する。

前編はこちら


そもそも日本に戦闘舞踊ってあるんだっけ?


 ところでそもそもの話なのだが、戦闘前に舞踊を踊るという文化は日本にはほとんど無い。日本が特殊なのではなく、世界的に戦闘舞踊が発達している国というのは少ないのだ。

 これは当たり前の話で、戦闘前に踊りを踊っている場合ではないし、いつ敵から攻撃、特に弓矢や鉄砲が飛んでくるか分からない状況下では、敵への注意を怠る事ができないのだ。


 武器を持ったままの踊りとして「剣舞」を思いつく人もいるだろう。

 これは決して戦闘前後に行うものではなく、鑑賞用や邪気を払うための儀式として発達したものであり、勇壮さよりも華やかさが際立つ。


 剣を持っている前提での優雅な舞であるため、素手に応用することは難しそうだ。


 ポリネシアで戦闘舞踊が発達したのは、個々は屈強な男たちであるものの、戦闘自体は人数的には小規模なものであり、武器も発達していなかった事が考えられる。

 素手で行う勇壮な踊り、それが逆にラグビーの試合前だけでなく卒業式や結婚式などでも行える、親しみやすい文化としての定着に一役買っているのかもしれない。


 メラネシアであるフィジーのシンビは槍を持っているような素振りであるが、動きよりも掛け声に重点が置かれたウォークライであるので素手でも成立しているのだ。


 では日本における戦闘の儀式とはなにか、紹介するとすれば「鬨(とき)」だ。


鬨の声

 鬨とは皆さんも一度はやったことがあるだろう「エイエイ オー!」の掛け声である。

 鬨の声は特に、合戦の勝者や戦闘を優位に進めている側が、勝利をアピールしたり、相手の士気を下げたりする目的で行うことから、「勝鬨(かちどき)」として行われることが多い


 大河ドラマなどでもよく目にするのはまさにそれだ。

動画は葵徳川三代、関ケ原の合戦のシーンで、4:47で津川雅彦さんが演じる徳川家康が行っている。


 また、近年では自衛隊なども勝鬨の声を上げることがあり、実際に見てみるとなかなか迫力がある。


土俵入り、ソーラン節

 YoutubeやTwitterを見ていると、
「ハカに対抗するには土俵入りだ!」
とか、
「ソーラン節だ」
なんて書き込みもみられる。


 ソーラン節は確かに勇壮だ。起源は江戸時代後期から北海道沿岸で盛んに行われていたニシン漁における鰊場作業唄(にしんばさぎょううた)と言われている。

 当時、北海道の大半はアイヌの人々が住んでいたが、海は漁場として特に東北の漁師たちが出稼ぎに出ており、30人は必要と言われる一つの網を操る作業を効率よく行うためには、唄による結束が必要になった。


 それが鰊場作業唄であり、水揚げ作業の段階によっていくつかの歌が作られた。そのうち、沖揚げ音頭として成立したのがソーラン節なのである。

 結束を高めるために作られたという意味では、今大会で日本代表が歌っていたビクトリーロードに近いのかもしれない

 ソーラン節は確かに勇壮だ。ただ、戦闘舞踊ではない
 ソーラン節への起源を理解した上で、ウォークライとしてこれを挙げるのは少し場違いであるように思う。


 また、土俵入りは相撲の儀式だ。これは確かに迫力があり、カッコいい。

 ただ、相撲の儀式である土俵入りがラグビーにフィットするかどうかも疑問が残る。


各大学に残る「〇〇節」

 実際の戦闘ではないが、日本には独自の学校文化として応援団があり、その応援団を中心に学生たちの歌と親しまれた学生歌や寮歌が多く存在する。
 その中でも特に有名なものに、「近大節」、「日大節」、「明大節」、「中大節」などがある。


 歌詞が類似するこれらの「〇〇節」は現在、近大のものが最も古いという解釈から近大節以外の大学では公の場では自粛が行われているが、これらのルーツになったのは「報国節」であると言われている。

 報国、国に報いるという言葉が意味する通り、戦争に出る兵隊を送り出す歌として歌われていたものだ。


 この報告節についてはほとんど研究されていないようで学術論文などはほとんで見つからず、歌詞などもなかなか見つからないが、近大節や日大節などはYoutubeの動画で見ることができる。

 近大節は演奏がついているものが多いため、ここでは日大節の動画を紹介する。

ぼろはまとえど 心は錦~
どんなものにも恐れはせぬぞ~♪


 日本的な民謡をルーツに戦前に作られた報国節、そしてその報国節を各大学ごとにカスタマイズした各大学節と、時代に合わせて変化させてきた様子を見ることができる。

 鬨や剣舞と異なり、決まった形にとらわれる必要がないため、ラグビーのために新たに作曲した「ラグビー節」などを伝統に準ずる形で作っても面白いのかもしれない。


大事なことなのでもう一度言いたいこと

 さて、この記事でウォークライに対抗できそうな日本の踊りの文化、戦闘の儀式を紹介した。だが、前回も紹介した通り、ウォークライの対抗措置はすでに行われているのである。


 それは各国がしっかりとアンセム、国家を歌うことだ。


 もともと国歌斉唱はハカへの対抗として始められたものであり、歌にはハカに負けない力があるということを忘れてはいけない。

 まずは君が代を思いきり歌うことから始めてみよう。