【職員募集】屋久島で、人と自然の間に立ってウミガメを保護する


 「自然遺産としての屋久島の価値は、多くの人たちが暮らしていながら、すぐれた自然が残されていることにある。」


 日本で初めて世界遺産に登録された屋久島は、ユネスコ世界遺産センターのドロステ所長(当時)によって当時こう評された。

 屋久島は、人が入り込めない絶海の孤島ではなく、有史以前から人々が生活し、現在も1万2千人が暮らす有人島だ。縄文杉をはじめとした大自然が残り、世界遺産に登録され、それを目当てに観光業で賑わう島となったのは、島の人々が自然を破壊することなく、自然と共生してきた結果に他ならない。


 そんな屋久島の自然は屋久杉の森だけではない。

 ヤクシマシャクナゲなどの高山植物帯、シイやカシなどの常緑広葉樹林、海岸近くには亜熱帯性の森も広がっている。島の南東部にたたずむ巨樹「猿川ガジュマル」の異形の姿は、訪れた人々を圧倒させる存在感がある。

屋久島の亜熱帯性の森に根を張る猿川ガジュマル

 屋久島の人々は海から多大な恩恵を受けてきた。

 黒潮の本流の通り道に位置する屋久島ではトビウオ漁とゴマサバ漁が盛んにおこなわれ、人々は豊漁を祈願して毎年「トビウオ招き」という儀式を行い、漁業神としてエビス様を島のあちこちでお祀りしてきた。


 その黒潮に乗って島にやってくる来訪者がいる。ウミガメだ。

屋久島はアオウミガメの産卵地の北限に位置し、特に北西部の永田浜は日本に上陸するアカウミガメの個体数の30~40%を占める、北太平洋最大のアカウミガメの産卵地となっている。

 屋久島の人々は、貴重なタンパク源のウミガメの卵を妊婦さんの栄養源として食すこともあったが、決して取りすぎることなくずっと共生してきた。

永田浜で産卵をするアカウミガメ

 しかし今、ウミガメは絶滅の危機に瀕している。それには人が引き起こした複合的な要因によって、ウミガメが産卵できる浜が無くなってきていることにあるのだそうだ。

「1985年、屋久島で最も美しく自然状態で残っていた永田地区の砂浜を守るためにウミガメを主役にし、「屋久島ウミガメ研究会」としてウミガメの調査・保護活動を始めました。」

うみがめ館代表の大牟田一美さん

 説明をしてくださったのは、NPO法人屋久島うみがめ館理事、松原まどかさんだ。

「当時は、海岸で砂の採取が行われており、ウミガメが産卵する砂浜は減少の一途をたどっていました。」

「減少して行くウミガメを増やすために、網を破られたりしてウミガメを迷惑がっていた漁師さんや、観光で島を訪れる人達に子ガメの里親になってもらい、そのウミガメを放流し、回遊経路を解明するということをしました。」


 人々にウミガメの保護を理解してもらう啓発運動と個体数の増加に繋がるユニークな活動のかいあり、徐々にウミガメの保護における砂浜の保全の重要性が認められるようになる。

「1986年に海浜の砂の採取は禁止され、鹿児島県は砂浜を守ってくれることを約束しました。そして1988年、日本で初めてとなるウミガメ保護条例が制定され、2002年には念願だった永田浜が国立公園第2種特別地域に指定されたのですが、残念ながら砂浜の後背地は個人所有地だったため、国立公園になったのはわずか10ヘクタールとなりました。」

「2005年に永田浜はラムサール条約登録湿地になり、2006年、国立公園に上陸してくるウミガメを環境省は保護動物に指定しました。」

 こうしてみると、絶滅危惧種と制定されながらも現場レベルでの保護活動が進んだのはつい最近のことなのだと感じる。だが、永田浜は保護されたものの、その面積はかなり限られたものになってしまっているのが現状なのだ。

北太平洋最大のウミガメ産卵地、永田浜遠景 


 限られた範囲だが特別地域かつラムサール条約登録湿地に登録され、環境省によって保護動物になったウミガメたち。これで永田浜のウミガメだけでも安泰になったのかと思いきや、今度はその産卵活動自体が阻まれやすい状況になっているのだという。


 その原因は観光客の増加だった。

「2000年頃から屋久島が観光地として有名になると、旅行業者などによりウミガメの見学ツアーが組まれ、大勢の人がウミガメの産卵期に砂浜に入るようになりました。その結果、巣穴の上を踏み固められて孵化した子ガメが砂から出られず窒息死してしまったり、踏み潰されてしまったり、中には巣穴を掘り返す人もいて、多くの子ガメが死にました。」

ウミガメの卵

 もちろん、うみがめ館は保護ロープなどを貼って立ち入りを制限しているが、観光客の中にはそのロープを乗り越えて浜に侵入する人が少なくないという。

 またそのような直接的な行為がなくても、そもそも島に人が多く訪れるようになったこともウミガメが数を減らしている原因になっているのだそうだ。

「親のウミガメは人工の明りを嫌う性質があります。永田浜の近くにも道路が通り、交通量が増え、宿泊施設も増えました。車のライトや建物の明りがあると、ウミガメは上陸を控え、産卵をあきらめて海に帰ってしますのです。」

「それだけではありません。孵化した子ガメは月に照らされた海を目指すため、明かりに向かっていく習性があるのです。その結果、人の出す明かりに混乱し、体力を消耗して死んでしまう子ガメが多くいます。」

被害にあった子ガメたち

 ウミガメの受難は消波ブロックに挟まれて死んでしまったり、護岸によって上陸が阻まれたりと、挙げていくときりがない。うみがめ館はそのような人とウミガメの間に生じた問題に、真正面から向かい合ってきた団体だ。


「屋久島町は当初『ウミガメ博物館』という施設を構想していましたが、資金不足により断念しました。そのため私たちは独自に調査研究活動等の啓発活動の場として、手作りの展示施設を1999年に開館し、会名を「屋久島うみがめ館」に改名しました。2001年にNPO法人を取得して「NPO法人屋久島うみがめ館」となりました」

「現在、ウミガメは最も少ないときの約7倍に増え、永田浜の周囲には宿屋等が立ち並び、更にウミガメ観察や浜を憩いの場として訪れる人達は年間10万人を下らないと推定されています。その経済効果は数億円とも言われています。」


 人と自然が共生し、観光業によって成り立つ屋久島の経済。

 うみがめ館は、決して人からウミガメを遠ざけることはせずに、地道な調査・研究、保護活動、普及・啓発を行っている。

孵化調査の様子

「生態調査は、4月の末から8月に上陸してくるウミガメの産卵と上陸回数、上陸してきたウミガメの回遊・回帰を調査する標識調査、ふ化して海に帰る子ガメの孵化調査を主に行っています。また生きている個体だけでなく死んだ個体の調査や、水温や砂の温度なども測定しています。」

「その中で、波で流出したり人に踏まれそうな場所にある卵を安全なところに移植し、卵の多い場所には保護柵を設置したり、消波ブロックに挟まってしまったウミガメを救出したりしています。」


 原因が多いだけに非常に多岐にわたる調査・保護活動。概要を聞くだけでも大変そうな印象を受ける。

「例えば子ガメが孵化する時期は、朝の7時から8時頃まで子ガメの脱出巣調査、夕方6時半から10時半頃までふ化調査を行い、昼間は夜間の調査を補っています。非常にハードなので、地域の会員だけでは対応できず、全国からボランティアを募集して調査と保護活動を行っています。」

夜間に行われる調査

 ウミガメの保護は砂浜でのみ行われているのではない。砂浜を取り巻く環境の改善も重要だ。

「松などを遮光林として植樹しています。これは浜に入る人工的な明かりを遮るもので、親ガメの上陸を促し、子ガメが海にまっすぐ帰れるようにします。この遮光林が県道に伸びて車の通行の妨げにならないように管理するのも、遮光林を育てる上で重要なことです。」

「また浜の清掃は年に数回行っていますが、ウミガメの上陸前にあたる6月は、世界環境デーに合わせて大規模に行っています。」


 そしてそれらの活動について、冊子でまとめたり、成果を報告する説明会を開く事で啓発活動も行っているという。

館内でもウミガメの現状について詳しく解説されている


 ところがこのうみがめ館、一時存続が危ぶまれたことがあった。
 筆者もそのニュースを見たときは驚嘆した。約一年前、朝日新聞に掲載された見出しがこれだ。

「屋久島のウミガメ産卵地ピンチ 守り手のNPO解散へ(2018年1月5日朝日新聞)」

 うみがめ館の活動は多くの会員によって支えられてきたが、その活動を取り仕切ってきたのが代表の大牟田一美さんだった。1985年から活動をはじめ、70歳近くまで頑張ってきたが体力の限界を感じていた。しかし後継者が見つからなかったのだという。

「この時は、解散する方向で進んでいました。しかし、うみがめ館が無くなれば保護活動も行われなくなり、永田浜のウミガメが絶滅に向かう可能性がありました。」


 しかし、このニュースによって状況に変化が起きたという。

「うみがめ館の解散のニュースが全国に飛び交った結果、特に産卵期の屋久島への観光客のキャンセルが全体で1,000人以上ありました。このことから、うみがめ館の解散がウミガメだけでなく、屋久島の観光にも大きな影響があることが分かったのです。」

「そのようなこともあって町が今までの体制を見直しました。旅行業者等が行ってきた利益優先の観察会をやめ、ウミガメの保護を目的とした観察会を開催し、費用をウミガメの調査・保護に使うことになりました。その実行のためにはうみがめ館がどうしても必要となるので、スタッフの確保ができれば存続することとなりました。」


 存続することとなったうみがめ館には目指しているものがある。

「うみがめ館は調査・保護・啓発については現行の状態を継続し、展示館についてはウミガメの飼育施設の増設、館のリニュアルを行えるような資金集め、更にウミガメ保護と調査を主にしたウミガメの資源としての利用を行政や関係機関をと共に構築していけるような体制づくりを目指していきます。」

地域住民と行われた浜の清掃の様子

 そのような経緯の中での今回の職員募集。
 屋久島の観光業とウミガメの保護におけるうみがめ館の役割は非常に大きいが、どのような人を求めているのか。

「キャリアなどは問いません。やるべきことを責任を持って行い、根気があり。素直で明るい人。そして、何をすべきか先の見通し見える人です。あと、シーズン中は展示館や浜にいろいろな人が来ます。挨拶はしっかりできる人がいいですね。」

「とにかくウミガメが好きな人です。そして、業務の状況を把握でき、いろいろな面で指導できる人であればなおいいと思っています。」

館内で開設をするスタッフ


 松原さんにうみがめ館で働いている時に心がけていることを聞いた。

「まずは、事務局は少ないスタッフで仕事をしていかなければならないので、お互いにコミュニケーションするように心がけています。また、ウミガメシーズン中はウミガメの調査・保護活動に参加してくるボランティアが居ますので、ボランティアも交えてミーティングを行ない、ボランティアの状況を把握するようにしています。」

「そしてボランティアに限らず館にはいろいろな人が訪れます。服装や髪型、言葉遣いや挨拶にも気を付けています。」


 なお、スタッフはうみがめ館近くのカメハウスで生活することができ、Iターンの場合でも住居には困らない。

カメハウスの内部 ミーティングルームもある

 ウミガメ、うみがめ館の会員、町の人、観光客と、うみがめ館のスタッフは関わる人、ものが非常に多い。それらすべてに目を配り、問題があったときは早めに対応するなど、求められているレベルは非常に高い印象だ。 そして、それを乗り越えるのはきっと屋久島の自然やウミガメへの愛なのだろう。それを持っている人であれば、使命感を持ってやりがいを感じて働ける仕事だ。


 ただ、決して万能な人を求めているのではなく、業務の適正を見るという。

「採用する前に3ケ月の研修期間を設けます。今も一人、研修中の方がいます。うみがめ館の業務は多種多様ですので、どの業務が適しているかを確かめ、1年を通して経験してもらう予定です。」

 スタッフ以外にもインターンや短期有償ボランティアなどもうみがめ館は募集している。とにかく、人手を必要としているのだ。


 人と自然の間に立って最善を尽くすことに情熱を燃やせる人。その登場をうみがめ館だけでなく、ウミガメやこの島の自然も待っている。

うみがめ館入口

◆募集概要

NPO法人屋久島うみがめ館

職種   スタッフ
給与   月給150,000円から *能力に応じて支給。
待遇   各種社会保険完備(労災、雇用保険、健康保険、厚生年金保険)
     ※研修期間終了後
勤務地  NPO法人屋久島うみがめ館
     鹿児島県熊毛郡屋久島町永田489-8
勤務時間 8:30~17:30(1時間休憩含む)
     ※調査シーズン中(5~9月)は不規則となります。
休日   週休2日制
     ※調査シーズン中は不規則となります。
     ※12月25日~1月10日は休み。
勤務内容 
 ・調査データ等の入力・分析
 ・ホームページ管理
 ・うみがめ館(展示資料館)の入館者への対応・運営
 ・ウミガメハウス(ボランティア宿泊施設)の維持・管理
 ・ウミガメの生態調査(5~9月のシーズン中のみ)
 ・その他
応募資格
 ・45歳までの男女
 ・パソコン操作(エクセル、ワード)ができる方
 ・運転免許取得者(AT限定可)
採用予定人数 若干名
選考プロセス
 履歴書(職務経歴、志望動機も記載)を下記宛へ送付。
 〒891-4201

 鹿児島県熊毛郡屋久島町永田489-8 NPO法人屋久島うみがめ館事務局 宛


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