【村役場職員】関係人口の先進事例に取り組む、鬼が開いた村

 鬼の末裔が住むという伝説を持ち、下北春まなという伝統野菜の食文化を持ち、関係人口拡大に向けた新たな取り組みを積極的に行っているユニークな村がある。

 奈良県吉野郡下北山村。
 人口900人に満たないこの村は、熊野川の源流にあたる池原ダムがあり、熊野山地の主峰の一つである釈迦ヶ岳の麓に位置する。村へは、奈良駅から大和八木駅を経由して車に乗ること2時間。…そう書くとものすごく山奥にあるような印象を受けるが、実は太平洋に面した三重県の熊野市や尾鷲市から車で40分程度で行けてしまう、海に近い村でもある。

 今回の募集はそんな村役場の職員採用だ。
 新卒社会人、中途採用者は問わず、一般行政職と土木技術職の採用試験が1月21日まで募集され、2月に実施される。

 奈良県は自治体の3分の2が消滅可能性自治体に名を連ねているが、下北山村もその中に含まれている。しかし、下北山村は関係人口の拡大を積極的に仕掛けてきた。

「これがコワーキングスペースのBIYORIです。」

いつも笑顔の和田さん

 案内してくださったのは、笑顔が素敵な下北山村役場の和田英樹さん。元々下北山村で生まれ育ち、一度村外に就職したが、役場職員としてUターンしたのだそうだ。

 BIYORIは元々保育所だった建物をコワーキングスペースとして改装した施設で、「オンとオフをシームレスに」をテーマに様々な試みをしている。

「コワーキングスペースの短期間活用が少しずつ増えてきています。昨年10月からの1年間でコワーキングスペースは村内の方が693人、村外の方が537人の合計1,230人の方に使っていただきましたし、個室スペースも入居がありました。」

 都市部の企業のサテライトオフィスとしての活用もできるというBIYORI。
 キッチンも併設され、オフィスだけでなく地域のオシャレなコミュニティスペースとしての性格も持ち、様々なイベントが行われてきたという。一体どんなイベントが行われているのか、和田さんに聞いた。

BIYORIのキッチンスペース

「いくつか申し上げれば今年10月から始めた「紀伊半島の”なりわい”を考えるトークセッション “Dialogue BIYORI”」。これについては、BIYORIを通じていろんな人が集まりそこで掛け合わせによって発展的な事業につながればいいと思っています。三重県・和歌山県・奈良県北部の人も参加してくれているのがうれしいです。」

「それと、今年4月に村内に林産加工場がオープンしたのですが、そことの関係で行っている「DIY BIYORI」や「森の教室」などは地域の人が、地域の資源に触れながら一つの思いで共同作業ができています。この活動を通して下北山村の木材を地域や外部にPRできることができれば需要拡大につながると思っています。」

 ちなみにこの林産加工場を指定管理しているのはスカイウッド株式会社という村内の企業で、代表の本田昭彦さんは埼玉県川口市から移住した家具職人だ。
 自治体や元々住んでいた方々だけでなく、移住者も参加して新しいことに取り組んでいることが分かる。


 下北山村が実施している仕掛けは他にもある。

 ソーシャル&エコマガジン「ソトコト」とのタイアップで開催している、人材育成講座「むらコトアカデミー」だ。地域づくりに関心のある首都圏在住者が村職員と一緒になって現地実習等を通して地域づくりを行う実践講座である「むらコトアカデミー」は、これまで各5回、3期開催してきた。

 なぜ下北山村は関係人口に着目したのか。

「むらコトアカデミーを企画する前は、首都圏の人を対象に移住体験ツアーを企画していました。しかし、しまコトアカデミーの話を奈良県の福野さん(奈良県移住交流推進室長)やソトコトの指出編集長から聞いて移住ありきの企画に疑問を感じ、「関係人口」かなと思って変更しました。」

 しかし、単に関わる人を増やすというのは、具体的に村の活性化に繋がるのだろうか。それについて和田さんは言葉に自信を含ませこう答えた。

「まずは企画の幅が広くなりました。今まで下北山村の小さな村内で地元の人達と話をしていろんな計画を立ててきましたが、外部の声や新たな関係で新しい気づきもありました。そして何よりも下北山村と全くゆかりのない方が、下北山村の事を考えてくれることがうれしいです。」


 公務員は事務員というイメージを持たれがちだが、和田さんは臨機応変に動き、活き活きと活動的に仕事をされている印象を受ける。和田さんに、下北山村役場職員としての仕事のやりがいについても伺った。

「決められたことを淡々とする地方公務員の仕事の中で、ゴールはまだ見えていませんが、可能性に向けて仕事ができています。それと多くの人と関わることで下北山村のよさを伝える環境が増えたことは、単に広告媒体優先で発信してきた今までのやり方とは違って、「魂」が入ったものになっていることがうれしいです。」

BIYORIのロゴ

 魂が入った下北山村の情報発信。その甲斐あって、むらコトアカデミー受講生にはそのまま村のファンになる人が多い。

 そして、実際にむらコトアカデミーの受講がきっかけで、企業との協定締結に至った例もある。うつ病の方の復職・再就職の支援を展開する株式会社リヴァ(東京都豊島区)とは、うつ病の方に下北山村の豊かな自然環境のなかで地域住民との交流を通じて生き方や考え方を見直す機会を提供し、「自分らしい生き方を探し」を支援するプログラムを展開することを目的とした協定を締結したが、これはリヴァの社員がむらコトアカデミーに参加したことがきっかけだった。

 また、1期生の岸崇将さんは講座終了後村に3か月滞在し、実際に移住体験をした。岸さんの職業はデザイナーということで、建設中だったオフィススペースにBIYORIと名前をつけロゴを作成しただけでなく、村が推進する自伐型林業のロゴや特産品のパッケージデザインも作成するなど、村の新たな取り組みに積極的に参加している。

 しかし元々東京に住んでいた人の村への移住。不便はなかったのだろうか。岸さんにお話を伺った。

BIYORIで作業する岸さん

「結果的に不便はなかったです。あえて言うなら原付きバイクのままだったら不便だっただろうけど、途中から車を借りました。街には週に1回くらい行きましたがそんなに遠いわけはなく、東京でいうと高円寺から表参道のスーパーに行くくらいのテンションでした。」

 ネットの環境も整っており、デザイナーとしての仕事も継続していたという。
 では、村の人たちとはどうやって打ち解けていっただろうか。

「会いたいヒトには会いに行く。行きたいところに行く。挨拶をちゃんとする。そして遠慮せずにお世話をありがたく受ける。そして自分にできる範囲でなにかしらお返しをする努力をする。」

「自分の態度が大事だと思います。態度経済という考え方があるけど、自分がどう接するかで相手の反応もかわりますよね。根のない土地でいただいた施しには基本感謝の意をしめすとか、言葉にするとか。自分は住まわしてもらっているところからスタートしたのでそこの意識と同時にある程度の図々しさというか、相手がコチラに施してくれることは一旦すべて受け入れるという、とてもいいかげんなところが必要かと思います。」

 遠慮は逆に距離を作ってしまうということらしい。
 住まわせていただいているという意識を忘れずに、していただいたことは全て受け、あとでちゃんと恩返しをすることが移住のコツのようだ。


 地域おこし協力隊も毎年募集し、中には村の人と結婚し、定住した人もいる。
 村の多くは高齢者だが民間会社のバスが廃止になった際はコミュニティバスを新たに走らせるなど、元々住んでいた人も、高齢者も移住者も支えあって生活していくコミュニティがこの村にはあるのだ。

村のトチノキ巨樹群と岸さん

 そんな下北山村には、鬼の末裔と言われる人がいる。


 下北山村に聳える釈迦ヶ岳は世界遺産、紀伊山地の霊場と参詣道「大峯奥駈道」の一部だ。大峯奥駈道は修験道の祖と言われる役行者(えんのぎょうじゃ)が7世紀に開いたとされる、吉野から熊野三山に至る修行の道である。

 役行者は前鬼と後鬼という2人の鬼を従えていた。
 その鬼は現在の下北山村がある場所で子を宿し、生まれた五鬼助(ごきじょ)、五鬼継(ごきつぐ)、五鬼上(ごきじょう)、五鬼童(ごきどう)、五鬼熊(ごきくま)という5人の子供たちは修行者を支える宿坊を構えた。
 その宿坊の集落があったのが下北山村の釈迦ヶ岳の中腹にある「前鬼」の里であり、明治に修験道が衰退するとともに、そのうちの4つの宿坊は廃業したが、今でも小仲坊という宿坊を五鬼助家の61代目当主五鬼助義之さんが守っていらっしゃる。

 前鬼に伺ったのは夏、台風直撃のタイミングだった。
 事前の電話では宿泊客は私だけだと聞いていたのに、建物にはずぶ濡れのレインコートが大量に干してあるのが見えた。大峯奥駈道を縦断中のハイカーが避難してきたのだと言う。

 そして、夜はそのハイカーたちも含めて宴となった。
 前鬼の里の歴史の話、自然の話、そしてありとあらゆるものへの感謝の話、他愛の無い話。その中で五鬼助さんが事あるごとに「私の祖先の前鬼と後鬼が・・・」と普通に語っているのを聞くと、なんだか不思議な感覚になった。


 霧に覆われ、神仙界を思わせる不動七重の滝、前鬼ブルーと言われる透き通った青い水が流れる前鬼川。
 そんな山奥の異世界が隣り合わせに現在もあるのも下北山村の魅力の一つなのだ。

霧に覆われた前鬼、不動七重の滝

 また、下北山村にはここでしか採れない特産品の野菜がある。
 それが「下北春まな」だ。日本遺産にも選定されている。

 春まなでご飯を包んだめばり寿司をいただいた。高菜と見た目は似ているが、全く辛みが無く、少し甘みがある。そこに丁度いい塩味が加わり、胃袋に吸い込まれるように食が進む。栄養価も優れているのだそうだ。
 この春まなは下北山村以外で栽培すると全く違う味になってしまうという。

 全体的に南向き斜面で海も近い、暖かさを持つ下北山村だからこそ食べられる食材で、下北山村にはめばり寿司以外にも春まなを鍋に入れたり、おひたしや煮物、和え物にしたりする独特の食文化が今もあるのだ。

めばり寿司

 そんな歴史と文化と新たな挑戦がある下北山村の今回の募集。

 一般行政職は入庁後、何年かおきに異動しながら村の仕事を手広く行うことになるという。また、土木職は最近では村を維持していく上で生命線となる村道、林道の維持管理が多いという。
 村外や県外から移住する場合も住宅については村が最大限に斡旋をし、住宅手当も出るとのこと。例えば新卒者の場合、村営住宅に入ると自己負担は最大1万2千円程度で抑えられるのだという。

 役場での仕事について、地域創生推進室で働く仲怜里さんに伺った。

村役場の仲さん

「私は、下北山村のPR関連の仕事と観光に関する仕事をしております。具体的には、下北山村の事が世間や、ネット上で話題になるような仕組みを考えて事業を行うこと、観光に関する情報の整理や観光地の整備、イベントの実施や民間のイベント開催支援などの事業をしています。
 自分が企画したり、中心となって進めた事業がマスコミなどに新聞で取り上げられたり、テレビで放送されて、それを観た村民の方が「良かったよ」と声を掛けてくれた時は嬉しいですね。」

 仲さんはなぜ、下北山村役場で働こうと思ったのだろうか。

「下北山村はどこの田舎でもよく言われる「自然が豊か」、「川がきれい」、「人が優しい」の典型です。しかし、その中でもここの村民は、特に優しくて空気も読んでくれます。」

「近所の方は、地域の行事に誘ってくれますし、困ったことがあったときは、快く助けてくれます。また、干渉されるのが苦手な方には、重要な時以外、そっとしておいてくれます。排他的でもなく過干渉でもない。この村は昔、ダム建設で大いに栄えて都会だったそうです。今は都会の面影は一切ありません。いろんな人との交流があったことでいい感じの雰囲気になっていると思います。そんな下北山村が単純に好きなので村役場の仕事を選びました。」

ところで特に地方で進む高齢化社会。下北山村役場の中ではどうなのだろうか。

「年齢層は、ここ最近、20代30代の若い職員が増えてきて全体の半数を占めています。女性職員もたくさん増えて、とても良い雰囲気です!仕事で困ったことがあれば、上司や先輩方が声を掛けてくれてとても相談しやすく良いアドバイスをくれます。」

「忘年会や新任職員の歓迎会など、年に1回から2回大きな飲み会があります。その他は、部署ごとに小さな飲み会や打ち上げを行っています。」

 最後に、役場で働きながら感じる、この村のいいところについて伺った。控えめに笑いながら、仲さんはこう答えた。

「個人的には、村民の皆さんの人間性です。村の行う様々な事業を理解して、応援してくださります。豊かな自然も綺麗な川もいいですが、ここに住む村民の皆さんがとても素敵で一番いいところではないかと考えます。」

 村の魅力については、和田さんにも伺い、こうおっしゃっていた。

「四季を感じる景色や温度、その中でも夏は一番好きかな。それとなんか災害にも強い感じがすること。油断したらあかんけどね。あと、人が優しいとこ。」

 消滅可能性自治体だからこそ、新たな取組みに積極的な下北山村。
 前鬼の里の伝説があり、下北春まななど独特の食文化を持つこの村は、山奥の神秘性と、穏やかな里の暮らしが共存する、気候的にも人間的にもあたたかい村だった。

冬の下北山村役場


◆募集概要

下北山村役場

職種   行政職(一般事務職・土木技術職)

給与   大学卒 179,200円
     短大卒 159,800円
     高校卒 147,100円
     *初任給は、採用前の経歴等により加算される。

待遇   扶養手当、住所手当、通勤手当、期末・勤勉手当など

勤務地  下北山村役場
     奈良県吉野郡下北山村大字寺垣内983番地

勤務時間 8時30分~17時15分

休日   土曜日、日曜日、祝祭日、年末年始
     年次有給休暇、特別休暇

勤務内容 

(一般行政職)村長部局、教育委員会その他行政委員会事務局、議会事務局において行政事務全般に従事。

(土木技術職)村長部局において、主に土木建築事務全般に従事します。

応募資格
下記該当者を除く
・成年被後見人又は被保佐人
・禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
・日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者

採用予定人数 若干名

選考プロセス

①平成31年1月21日(月)までに受験申込書(ダウンロード可能)、履歴書、卒業(見込)証明書、成績証明書を郵送もしくは持参で提出
②平成31年2月3日(日曜日) 一次試験(一般教養試験、事務適性検査)
③平成31年2月24日(日曜日)二次試験(個別面接、作文)

詳細は下北山村新規採用職員募集案内(追加募集)を参照のこと。

応募する方はコチラ