【職人募集】蕎麦職人を憧れの職業に!職人としての感覚を磨く


 日本人に最も親しみのある食の一つである蕎麦。

 しかし一口に蕎麦と言っても、お店によって作る手間のかけ方も違えば値段もピンキリだ。ワンコインで食べられる立ち食い蕎麦屋がある一方で、職人が丹精込めて作った蕎麦を落ち着いた空間の中で提供する高級蕎麦屋もある。


「『蕎麦屋でディナーを愉しみたい。』そういった方々が増えることを目指しています。そんな風潮をつくりたいと小松庵は真剣に考えています。」


 今回は、そう熱意を込めて語る、小松庵総本家代表取締役社長の小松孝至さんにお話を伺った。

小松孝至さん

 小松さんは、

「蕎麦屋は、蕎麦をだしていればそれでいいのか。そんなことをずっと考えている。」

と言うほど職人に対する想いが強い。


 小松さんは小松庵の3代目。2代目の父と初代の祖父はどちらも職人であり経営者だったという。

「もともと祖父は丁稚奉公で上京し、蕎麦屋に勤めた後にのれん分け制度で始まったのが小松庵です。」

 大正11年に駒込で創業した小松庵。創業者は職人気質で店舗展開には否定的だったという。それを受け継いだ2代目は、店舗展開を開始する。1992年には池袋のメトロポリタン、2年後の94年には恵比寿ガーデンプレイス、さらに96年には新宿高島屋と積極的に店舗を増やしていった。

 その池袋のメトロポリタン店では、小松さんが職人に対して熱い想いを抱くようになったあるきっかけがあったという。

「目の前にあったのが、手打ちを謳った大手うどんチェーン店だったんですよ。もちろんチェーン店の値段は当店の半分。」

 一般消費者である筆者自身からみて、うどんと蕎麦は失礼かもしれないが「同じようなもの」というイメージがある。特に立ち食い蕎麦屋に入った時などは、カウンターで食券を渡すときに、
「うどんにする?蕎麦にする?」
 と言われ、
「うどん!あ、やっぱり蕎麦で!」
といった具合に気分で決めるようなものだ。

 普通に考えれば蕎麦屋とうどん屋が並んで、値段は蕎麦屋が二倍。価格競争的に勝負にならない。実際に開店して当初はしばらく閑古鳥が鳴く状態だったという。

 しかし、一か月後、客の入りは逆転していた。小松さんはそのとき、一人のお客さんのことを思い出したという。


「開店直後にあるご婦人から『あんた、この値段とこの味なら必ず客は来る』と予言めいた忠告をいただきました。何でも大阪船場で長年事業をしていた方とのことです。」

小松庵のランチメニュー

 予言者となったこのお客さん。「ご婦人」とは言っているが風貌的には、「アメちゃんあげよか」と言っていそうな「大阪のおばちゃん」のイメージそのままの人だったそうだ。しかし、そのおばちゃんは小松庵の味の価値に気付いていたのだ。

「価格は安いか、高いか、それだけです。反面、価格に見合っているかどうかは、わかりにくい。」

「ジャンルにこだわらない、お客様に美味しいと言っていただける喜びを感じる料理人が小松庵には集まっています。そして料理人が互いに高め合うことで、今まで思いもつかなかった蕎麦レストランを育てたいのです。現在7000円のコース料理もおかげ様で好評です。」


 そんな小松庵の蕎麦。それらは職人の育成があってこそ成り立っているものだと小松さんは語る。

「“おいしいものの追求” と“職人の育成” が小松庵の二つの柱です。さまざまな分野の専門家の方々からのご指摘、研究に鍛えられ、日々前進する小松庵の味が生み出されています。
 そして、そのすばらしい江戸前蕎麦の伝統を残すには、蕎麦職人を憧れの職業にすることが第一の課題だと思っております。」


 お話を伺って感じたのは、小松さんは単に店舗運営の経営者ではなく、蕎麦という日本文化を盛り上げ、健全な形で後世に残すための仕組みづくりを模索するプロデューサーなのだということだ。
 蕎麦というものを追求する職人たちがどうしたら、「職人意識を持って健全に対価を得ながら働けるか」その場づくりを真剣に模索している。

 そして、一つの課題を感じていた。

「今、私たちがぶつかっている問題は、職人のあり方をかなり根本から問い直す必要があるのではないか、ということです。」


小松庵の蕎麦の学び舎、蕎学舎

 職人の在り方の問い直しとはどういうことだろうか。

「職人が携わる領域はすぐにはわかりにくいものです。ですから、経済生産性とは相性があまりよくない。そこそこで、分かりやすく、より安価なものが一番のボリュームゾーンで、ここを商いするのが一般です。一方、高度な技術や鍛錬を必要とするものはわかりにくいけれど、世の中から消えてしまうのは寂しい。もっと言えばまだまだ新しい価値観を想像できる世界だとも思います。」

「世の中の質への関心の低下は気になっています。例えば、かつては2時間並んで買わなければいけなかったドーナッツ屋が、いつの間にかその店舗の多くが無くなっているなどということからも、自分の価値観ではなく話題性という外注化された価値観で人々が食べ物を判断している時代なのだと感じています。」


 芸術にも似たようなことが言えるだろう。

 もし絵画が全くお金にならない世界であれば、時間をかけ魂を込めて作品を世に送り出す人が生まれてくるはずがない。音楽業界も90年代に比べて利益が出にくくなった現代では、才能が育たないのではないかと懸念する人もいる。

 

「まさに蕎麦もそうです。庶民的、量産的な蕎麦が主流ですが、もっと極めた世界は本当に素晴らしい。ところが職人の労働環境は両者とも同じです。ですから高度な世界も目指せば目指すほどブラックになる。これを変えたいのです。蕎麦職人から錦織圭のように、周りからも尊敬されつつ利益もしっかりと作れるようなプロフェッショナルを生み出したいのです。」


蕎学舎2階の手打ち場

 では、小松庵での職人はどう育成されるのだろうか。小松さんいわく、「師匠と弟子の関係が基本」だと言う。

「まずは学ぶ姿勢を学ぶことです。この姿勢が身につくと、弟子が自ら問題意識を持って成長してゆきます。しかし師弟関係とは一方通行の関係ではありません。師匠も弟子が師匠を超えることを想定しているのです。そして師匠もその道を究める一員ですから、共に学ぶという対称的な関係が保たれるのです。」

 小松さんの考える師弟関係とは、とても建設的でクリエイティブな世界だ。
 だが、いわゆる下働きの期間など無いのかと思いきやそんなことはないらしい。小松庵では最初に「どうでもいいことの繰り返し」から入るという。


蕎麦の実をチェックする職人さん

「まず洗い物や片付け、まかない作りなど、どうでもいいことが毎日繰り返されます。イヤイヤでも繰り返していると身体と心に変化がおこってきます。さらに、どんなに単純な作業でも毎日毎日やっているとそれなりに上達してくる。これを喜びとできれば立派に職人の道に踏み出したと言っていいと思います。」

「これが最大の難所、職人の世界に進むかどうかの分かれ道です。『こんな仕事』としか感じられなければただの労働、楽しさを見つけられれば修行の道です。」


 小松さんのこのお話を聞いた時、「神は細部に宿る」という言葉を思い出した。
 どうでもいい作業にも神は宿るのだ。どうでもいい作業に神を見つけてこそ、蕎麦作りの工程一つ一つに神を探すことができるのだろう。一見どうでも良さそうなところに神を見つけた人が、職人として開花するのかもしれない。


「料理は、つまるところ作り手個人そのものだと思います。料理を出す瞬間、その人の技術はもちろん、体力、人柄、センス、知性など、さまざまなものが丸裸になります。だから料理はおもしろいです。同じレシピ、同じ材料でも全く違うものができることを私たちは、よく知っています。ですから、小松庵では、その人の真の個性を育てることに全力を注ぎます。」


 小松庵には職人たちが腕を磨く場である蕎学舎がある。
 三階建てで、1階は駐車場、2階手打ち場と玄蕎麦の収納庫。3階には蕎麦粉の製粉と鰹節から出汁を取る設備を集約しており、将来的には2階に蕎麦についての図書館も設置する予定だという。


10度に温度管理された蕎麦の実の収納庫

「職人は、経済にも関心をもち、人間的にも成熟化しなければいけないと思っています。それには、自分の分野のみではなく文化、芸術、スポーツなどへの興味なしには考えられません。例えば仕事の合間にオペラを観に行く、美術館に立ち寄る。そんな職人を育てたいのです。」


 最後に、小松さんに少し踏み込んだ質問をしてみた。
 伝統を守ることで何をしたいのか、現代の価値観をひっくり返したいのか、と。すると小松さんはこう答えた。

「ひっくり返すのではなく、同心円の中に置きたいと思っています。対立軸ではなく、どちらも正しいと思う。そういった同心円の世界を伝統を通して作るのが私の使命だと思っています。」

 

 蕎麦職人が真の意味で手に職をつけられる環境。何が正解かは人によって違うのかもしれないが、少なくともここにあるのは、現段階で小松庵が考える答えの形だと思う。そして職人に一流になることを求めるのと同じように、小松さん自身も一流の職人を生み出す場づくりを真剣に考えている。


 小松庵の「職人」に対する求道の精神は、蕎麦業界や伝統産業だけでなく、きっと日本社会全体にも、働き方や価値観に対して一つの形を提示しているように思えた。

小松庵総本店入り口

◆求人概要

株式会社小松庵総本家

職種   正社員 (アルバイト・パートも募集中)
給与   月給 200,000円~ (経歴による)
待遇   交通費全額支給、社会保険完備、家族手当、独立支援、保養所(八ヶ岳)
     昇給年1回、賞与年2回、
勤務地  駒込本店ほか(希望、経験を配慮の上決定)
     東京都豊島区駒込1-43-16
勤務時間 9:00~23:00(シフト制)
休日   週休制(月6休)、夏季・年末年始・慶弔・有給休暇
勤務内容 
・蕎麦職人
応募資格
・学びたいという気持ちがあれば蕎麦の経験は不問
採用予定人数 若干名
選考プロセス
   ① komatuan@ya2.so-net.ne.jp より問合せ
   ② 面接を2回実施

応募する方はコチラ


和はなび

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